「文車館来訪記」

・・・・細い路地を抜けると・・・・・・・。
そこには、もう一つの町が現れる。
そこに暮らす人々は、
役目を終えたもの
壊れてしまったもの
そして、人々に忘れられたもの。
様々な「物」たちが集う妖しの町に「文車写真館」はある。

「あれは わたしの忘れられない 一番悲しい思い出だ」

冬目景、と言えばまずあの絵柄を思い浮かべる人が大多数だと思います。
特に油絵の技法を多用したカラーは印象的で、ある意味彼女の作品の象徴と言えます。
オールカラー作品である「文車館来訪記」では、全編に渡って華麗な「冬目彩色」を堪能することが出来ます(*^^*)
なんて、ぜいたくな!!

物語の舞台は、大正時代初頭の東京。
どこからともなく「物の怪」たちが集まってくる、不思議な町がそこにあります。
この作品で「物の怪」というのは、単に「妖怪」を意味する言葉ではなく文字通り「物」の「怪」を指します。
持ち主から捨てられた「物」、壊れてしまい役目を終えた「物」。
「物」達が集まってくる町でひっそりと営まれる写真館を訪ねるものは少ないのですが、
彼らがそこに求めているのは、普通の写真ではありません。
イアンの瞳が撮すのは、被写体の幸せな記憶です。
物の怪達は、美しい「思い出」に今一度会うために、文車写真館を訪れるのです。

基本設定は上のような感じです。
冬目景作品らしいワビサビが全開で感じられ、まだ読んでもいないのに涙が出そうになる、そんなもの悲しさが漂っています(僕がこの漫画を知った時の第一印象)。
ストーリーは基本的に、イアンとヨオの前に物の怪が現れ、話を聞いてはその思い出を撮す、という流れになっています。
イアンが撮すのは幸せな思い出ですから、物語はハッピーエンドを基調にしているのですが、
最終話である「始まりと終わり」では、「幸せな記憶」が鮮烈な「悲しい思い出」を呼び起こすという趣向になっており唸らされます。
そしてそこで物語全ての発端が明らかとなるのですが、まあこれは伏せておきましょう(^^;
ただし、少しだけカンのよい方なら、ここまで読んだだけでもわかってしまうかもしれませんね。
冬目景作品のすごさは、意表をつく展開ではないのにしっかりと読ませ、考えさせてしまう雰囲気作りと演出のうまさにあると思います。
「文車館来訪記」も同じで、ストーリーは決して意外性に富んだスリリングなものではありません。
それでいて読者を強く惹きつける力、読み手の心に訴える力が備わっているのは、
一つには題材や見せ方がより本質的な魅力−つまり、流行や手先の技術ではない土台を持っているからではないでしょうか。
決して爽快な作品とは言えませんが、あたかも空気のように自然に部屋に置いてあって、ふと再読したくなる、
そんな彼女の作品のなかでも、群を抜いた存在感を持つ「文車館来訪記」。
それは人と物とが織りなす、悲しくも心温まるストーリーです。

−読んで下さい。

著者:冬目景。講談社発行の画集「百景」に収録。また、KCにて単行本化されました。

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