「愛をあげよう」

「誰も見に来てくれないと思ってた 一人ぼっちだと思ってた 応援してくれた家族がいたなんて思ってもみなかった・・・」
「お父さんはあたしができたからあの女と結婚したんでしょ だったら あたしができなければ結婚しなかった?」
「照れくさくて口に出しては言えないけれど 本当は心の中では何度も呼んでいるんだよ 『父さん』・・・て」
「あたしは家族がいたから書くことができた 家族が見守ってくれたから・・・書き続けてくることができた」
「少なくとも一匹は生きている 君がここへ連れてこなければ三匹とも死んでいたよ」
「夢見てた・・・お腹の赤ちゃんがバイバイってとんでっちゃう夢・・・」
「うるせーな親父だろ親父 文句あんの・・・」
「あの女に会ったよ 目が合った でもね気づかなかった 自分が産んだ娘だって」
「俺 この家が好きだよ 親父が作ったこの家庭(いえ)が 親父の息子に生まれた事 誇りに思ってるよ」
(全9巻から一つずつ、印象的な台詞を書き出してみました。)

「家族」を描いた傑作

この「愛をあげよう」は絶版になってすでに何年も経ってしまっていますが、「一番好きな漫画って何よ?」と誰かに聞かれたら自信を持って「愛をあげよう」だと即答します。それくらい好きな作品です。
「未婚の母」に女手一つで育てられた主人公「谷口正午」が、高校2年に上がるときに母を失ってしまいます。そこに現れた冴えない中年男。
「私が君の父親だ」というその男、安藤章吾に反発を覚えながらも、母の遺志でもあった安藤家での生活を決意した正午と、安藤家の面々や学校の友人達との関わり合いを涙有り笑い有りで描いた典型的な?ラブコメ/ホームコメディです。

6人(と一匹+・・)の安藤家は複雑な家庭です。
正午の姉、卯月と弥生。
卯月は章吾の最初の妻との間に生まれ、弥生は睦子と別れた夫の間に生まれた子供です。つまり、ふたりは両親それぞれの連れ子であり、血のつながりはありません。
正午は、章吾が職場の女性と道ならぬ恋に落ちて産まれた息子であり、
末娘の葉月は章吾と睦子の間に生まれたただ一人の娘、という家族構成で、説明するだけで頭がこんがらがってきそうです。
ですが、安藤家には血のつながりがある/ない、ということによる確執はまったくありません。
なにせ「父親が過去に、よその女性に産ませた子」である正午を、愛情全開で受け入れてしまうくらいですから(^^;
正午自身、安藤家での暮らしに強い不安を覚えていたのも無理からぬ事なのですが、この家族にあっては無用の心配だったのです。
これにも実は理由があって・・・
章吾と睦子は上に書いたとおりの再婚同士なのですが、このとき章吾は、正午の存在について何もかもを睦子にうち明け、睦子は全てを受け入れていたのでした。そしてそれは娘達にも伝えられていたのです。
安藤家の面々は、正午の事をずっと知っていたのですね。
そして、「いつかは弟と/兄と/息子と一緒に暮らせたら」、という願いを持っていたのです。
願いは叶いました。それは皮肉なことに、正午の実母である美沙子の死によってでしたが・・・
ちなみに、正午という名前は、正午の母である美沙子が、章吾への思いを込めてつけた名前でもあるのです。

物語は正午と弥生(姉だけど実は血がつながっていない)の恋を縦軸として描かれています。
弥生に恋した正午のドタバタぶりがなんとも楽しいのですが、家族であるからこそ浮き彫りになる様々な悩みも見所です。
また、主に卯月を中心に繰り広げられる、安藤家の過去にまつわるエピソードが全体に深みを与えています。
過去のエピソードは悲しい内容が多いのですが、それを乗り越えて家族に、思い人に愛情を注ぐ卯月の姿は本当に魅力的です。
そして、正午の人生を変える「ある事件」、卯月の切ない恋の結末、一家に起こる悲しい出来事を経て、正午は人生の新たな舞台へ旅立ちます。
「僕の帰る場所はあの家だから」と、今やかけがえのない「家族」となった安藤家への思いを胸に。

思い入れが強すぎるのか、何とも読みにくい文章になってしまいました。
ついでに、もう思い入れを抑えようともせずに言いますが、子供のいる方はぜひ読んで下さい。
親きょうだいと暮らしている方もぜひ読んで下さい。
家族を離れて生活している方も、不幸にも家族の誰かを亡くした経験のある方も(幸いにしてと言うべきか、僕はまだこの経験がない)。
よーするに「とにかく問答無用で読んでくれ!!」ってことなんですけど、それだけの価値はある作品だと思います。

作者は「ともち」先生。ソニー・マガジンズから全9巻が発売されましたが絶版 orz
マジでどっかで復刊してくれないものでしょうか・・・突然のドラマ化とかも激しく希望。買うし見るぞ!!

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